
憧れのマイホームを建てる際に、ほとんどの方が住宅ローンを利用しています。マイホームの価格を決める場合、年収やライフステージ、人生設計を考えて決定しますが、住宅ローンについても事前に考慮しておくのは重要なことです。
住宅ローンのポイントは次の2つ。
● 自分ならいくらまで借りられるのか?
● いくらなら無理なく返済できるのか?
ここでは、住宅ローンの融資額や無理のないローン組みの方法について分かりやすく説明します。
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一番大切なこと
住宅ローンの利用で最も重要なこと、それはズバリ『どのくらいの融資であれば、毎月の返済が滞りなく行えるか?』に尽きます。
高収入の方は銀行からの融資が受けやすく、融資上限も高く設定されます。ですが、安易に上限近くまで借りてしまうのは問題です。
各家庭にはそれぞれライフスタイルがあって、収入と出費とのバランスがまちまちである点に注意しましょう。
『銀行さんが貸してくれるのだから、きっと無理なく返せるだろう!』と思い込むのは問題です。銀行は過去の実績から融資の限度額を割り出してはいますが、それは平均値に過ぎません。
子供の教育費に大きな費用をかける家庭もあれば、レジャーや趣味に大金を投じる方もいます。たとえ収入が多い家庭でも、それ以上に出費がかさむ時期があるものです。するとローン返済が重荷になって、マイホームを手放すリスクも生じます。
夢のマイホームということで家族の希望を叶え、満足のいく家を建てたい気持ちは分かります。そのために住宅ローンを有効に利用したいと思うことでしょう。
そこで大事なのは、満足度と返済負担のバランスです。無理のない返済プランが実践できるレベルで、住宅ローンを組むことが最重要ポイントです。
無理のない借入金額とは
まず、住宅ローンの借り入れ状況を確認してみましょう。住宅ローンを組む際に、銀行側が最も注意する査定ポイントに『住宅の購入額と世帯年収の比率』があります。
住宅購入費と世帯年収との比率
そこで参考までに、全国の平均的な住宅購入費と世帯年収を確認してみましょう。
物件種別 |
平均購入額 |
平均世帯年収 |
土地付き注文住宅 |
4615万円 |
744万円 |
建売住宅 |
3851万円 |
688万円 |
分譲マンション |
4457万円 |
798万円 |
中古マンション |
2746万円 |
694万円 |
上記の表にある通り、新築住宅は世帯年収の5~7倍と考えることができます。ただし、購入費用には住宅価格の他に諸費用も必要になりますので、マイホーム購入の総費用(所要資金)から考えますと、その目安は新築で年収の7倍前後、中古住宅では4~5倍と見ておきましょう。
住宅ローンは年収倍率を5倍以内にとどめるのがポイント
住宅ローンの融資額については、できれば年収の5倍以内にとどめると無理のない返済ができると言います。
新築では年収の7倍前後の購入費用になりますので、年収の5倍を超える費用は頭金として用意しておくのが好ましいでしょう。
具体的には、世帯年収500万円の家庭であれば、ローンの借入金を2500万円程度に抑えるようにします。そうすべき理由は、将来的な出費への備えとともに、収入が減ってしまうリスクに対処するためです。
今現在は家族が皆元気で、働き手が十分に収入を稼いでいるとしても、将来に病気で長期入院をしたり、転職や失業で収入ダウンすることもあります。それで年収が大幅にダウンしてしまえば、それだけ返済負担が増すこととなり、家計を厳しく圧迫してしまうでしょう。
そこで年収の5倍程度に抑えることで、将来の収入ダウンに備えることができます。ローンを抑えた分は貯蓄に回し、将来の収入変動に割り当てるように準備しておくのも得策でしょう。
年間の返済額は手取り年収の20%程度が目安
さらに言いますと、毎月の返済額についても目安を確認しておくと安心でしょう。一般的に銀行では、『返済可能金額を年収の25%の1/12』を目安に融資設定しています。
例えば年収が500万円(月収30万円)の家庭であれば、毎月の返済額は10万円程度になるといった具合です。
もちろん、この返済額でも滞りなく返済することが可能でしょう。住宅金融支援機構が提供する【フラット35】の返済比率は30~35%を想定します。この範囲であれば返済可能だと判断しているわけですが、実際はそう容易い話ではありません。
このご時世では、給料カットや転職・失業などによる収入ダウンの心配があります。現に住宅ローンが払えなくなり、泣く泣く手放すケースも増えています。
銀行の想定する『年収の7倍・返済比率は年収の25%』という数値では不安感が残ると考えられます。あくまでも返済可能とされるレベルであって、無理なく返済できるレベルではない点に注意してください。
たとえ銀行が貸してくれると言っても、そのまま借りてしまわないように気を付けましょう。
そこで無理のない返済プランを実戦するために、返済比率を『手取り年収の20%程度』にすると良いでしょう。
手取り年収500万の返済比率20%をシミュレーション(夫婦と子1人の扶養世帯)
この場合、手取り年収は400万円ほどとなります。ボーナス抜きの月収は30万円前後で、この範囲内での返済プランを考慮します。
*ボーナスはカットや減額が生じやすいため、基本収入から除外する方が安心です
400万円の返済比率20%で住宅ローンを組む場合、「400万円×20%=80万円」が年間返済額の上限と考えることができるでしょう。つまり、月に6万6000円前後の支払いを目安にします。
額面年収500万の返済比率が25%の場合は、年間125万円の返済・月10万円を超える返済をしなければなりません。手取り30万円ほどの家庭では、月に20万円しか生活費に回せなくなってしまいます。
これでは、子供の養育費や妻のオシャレ、ご家族の楽しみのための費用がまかないきれないかもしれません。また、いつもギリギリの家計ですと、なにか問題が生じたときに金銭的に困窮してしまう可能性があります。
それでローン返済が滞れば、最終的にマイホームを手放すことになるかもしれません。そうならないためにも、返済比率を手取り年収の20%にとどめることをおすすめします。
無理をしないのが基本
夢のマイホームは家族みんなの希望を叶えるレベルで購入したいものです。ただし、その後の家族生活を楽しく幸せにするためには、無理のない返済プランを確保することが重要ポイントです。
住宅ローンの年間の返済額を手取り年収の20%程度にとどめるなら、憧れのマイホームで多少の余裕がある暮らしになることでしょう。そこでマイホーム購入では、ぜひ次の点を考慮してみてください。
無理をしないで買える物件を選ぶ
先の述べた通り、住宅ローンを無理なく返済できるプラン造りが肝心です。手取り年収の20%を基本にして、その範囲内で購入できるマイホームを丁寧に選んでみましょう。
そのためには、希望に叶う住宅をできる限り安く購入する工夫をします。
例えば3000万円の予算が上限となる場合、建物のレベルを上げるためには土地代をかなり抑える工夫が必要になるでしょう。都市部の高い土地を選ぶのでは、建物の大きさや豪華さを求めることが難しくなります。
そこで通勤・通学が少し遠くなるとしても、郊外の自然環境の良い土地を選ぶと良いかもしれません。
都会の利便性は得られませんが、都市部よりも大きくて機能的なマイホームが選べます。また閑静な住宅地であれば、ゆったりと落ち着いた生活が育めるメリットもあります。憧れの土地に住みたいと望む場合でも、無理をしないマイホーム購入のために土地価格が低い物件を探すと良いでしょう。
また、新築ではなく中古を買うこともコストダウンにつながります。冒頭の図表にもある通り、同じタイプの住宅でも、中古の方が新築よりも30%程度は安くなります。
頭金を貯める(購入価格の20%前後)
住宅ローンを低く抑えるには、やはり頭金を多目に支払うことが一番でしょう。無理のないマイホーム購入をするためには、返済比率を手取り年収の20%ほどに抑え、かつ住宅ローンの頭金を購入金額の20%以上にするのが目安です。
国土交通省の住宅市場動向調査報告書によりますと、令和元年における『住宅ローンの頭金平均金額は1000万~1800万円・物件価格の20~40%』とあります。
例えば3000万円の物件を購入するなら、できれば頭金を600万円以上にすると返済上のメリットが大きくなります。逆に、頭金なしの住宅ローンにはデメリットがあることを知っておいてください。
頭金なしの住宅ローンは担保割れのリスクがある
頭金なしのローンでは、返済期間中に住宅価値がローン残債を下回る、いわゆる担保割れのリスクが生じる可能性があります。
仮に低利息でお馴染みのフラット35を利用して、購入価格3000万円のマイホームを購入したとしましょう。返済期間が35年間と長期のローンですから、途中で住宅価値が大幅に下落する可能性もあります。それによって担保割れの状態になれば、住宅を売却してもローン残債に足りず、借金だけが残ってしまうこともあるのです。
借入金利が高くなる傾向がある
例えばフラット35の金利においては、頭金が物件価格に対して10%を超える(融資率9割以下)場合は年率1.32%で融資が受けられます。しかし頭金が10%以下になれば年率1.58%で年0.26%も差が出てしまいます。(2020年9月時点の例)
返済不能のリスクが高まる
頭金なしでは、同じ物件を購入するにしても融資額に差額が出て、月々の返済額が苦しくなってしまいます。高くなった分、生活費への負担が増しますから、返済不能になる危険度が高まるのです。
注意点
住宅ローンを組む際は上記のポイントをおさえた上で、さらに次の7つの点に注意をしてください。
1:毎月の返済額は今の家賃以下に抑える
先に返済比率を手取り年収の20%にとどめるようお話ししましたが、さらに付け加えますと月の返済額を現時点で支払っている家賃までに抑えることも大事です。今現在の家賃レベルであれば、その後も無理なく支払いしていける可能性が高いからです。
たとえ月の返済額が手取り年収の20%以下であっても、それが今の家賃より高いのであれば慎重に判断した方が良いでしょう。なお、今の家賃でも家計がキツイならば、それ以下に返済額を下げる工夫も必要でしょう。
2:大手企業に勤務している方や公務員など安定した職業についている人は借り過ぎに特に注意
住宅ローンを提供するのは、銀行をはじめとした営利企業の金融機関です。彼らの目的は『少しでも多く貸し出して、利息をたくさん取る』です。決して卑しい話ではなく、企業である以上当然の経営方針と言えます。
そこで注意したいのが、収入が多く安定している職業の方です。そういった方からのローン申し込みであれば、融資限度額を拡大しておすすめしてくることでしょう。
国の住宅金融支援機構が提供するフラット35でさえ、返済比率を35%まで承認するケースがあります。金融機関によっては、大手企業や公務員なら返済比率を40%まで拡大することもあります。
ですが、これまでお話しした通り、長引く不景気に苦しむ日本社会ではリスクの高い判断だと言えるでしょう。
『銀行が貸してくれると言うのだから心配ない』と、不用意に誘いに乗らないよう注意しましょう。あくまでも手取り年収の20%程度で、月の返済額が現在の家賃並みになるように融資額を抑えるのが安全です。
なぜなら、マイホームに住むようになると賃貸では不要であった固定資産税・都市計画税の支払いが生じます。軽減措置期間であっても年間9万~12万円はかかるでしょう。なお、居住面積が広ければ光熱費が拡大しますし、リフォーム費や修繕費も準備しなければなりません。
マンションであれば管理費・修繕積立金に、駐車場代も必要となるでしょう。賃貸よりも余計にお金がかかるので、住宅ローンの月の返済額はせいぜい家賃並みにするようにおすすめします。
3:定年前に完済できる規模の住宅ローンを組む
月のローン返済額が家計に大きな負担をかけないとしても、返済期間が長い場合は問題発生のリスクがあります。住宅ローンを申し込む年齢にも注意が必要です。
仮に35歳でフラット35の住宅ローンを契約したとしましょう。(*フラット35は申込時の年齢が満70歳未満の方が対象)
返済期間が35年間ですので、完済するのは70歳の時となります。60から70歳という年齢は定年退職の時期で、完済前に収入が減額するリスクがあります。そうなると、返済プランが成り立たなくなる恐れがあります。
もちろん、事前に貯金をするとか、退職金で繰り上げ返済するなどの工夫もできます。ただし、今の時世ですから退職金がまともに出ない危険もあります。貯金も思うようには貯まらないこともあるでしょう。
そこで、基本的には返済期間は定年退職の前までにするようにおすすめします。もし定年を超える条件を組む場合は、繰り上げ返済などの目処を立てるか、親子リレーで返済計画を立てるかなど準備をすると良いでしょう。
4:ボーナスをあてにしない
住宅ローンは手取り年収の20%にすると無理のない返済が見込めますが、ここにボーナスを入れるのは問題です。ボーナスはあくまでも企業の判断で配給される臨時収入です。景気が悪くなればボーナスカットが当たり前ですから、いつも満額もらえる保証はありません。
返済プランではボーナス収入は除外して対応するのが好ましいでしょう。もちろん融資額の計算でもボーナスは含めないようにしましょう。
5:変動金利に要注意
住宅ローンの返済をお得にする方法として、金利設定を変動金利にすることがあります。一般的に変動金利は固定金利よりも何割か低い設定になります。多額の融資を受ける住宅ローンですから、ほんの0.1%でも金利は低いに越したことはありません。
ですが、適用金利が低いからと安易に変動金利を選ぶのは問題です。リーマンショック以降ゼロ金利政策をとってきた日本では、やがて金利上昇の局面が訪れる公算が高いです。既に金利引き上げを行っているアメリカなどを参考として、金利上昇による返済額の増加には十分注意する必要があるでしょう。
6:ペアローンの落とし穴
夫婦共稼ぎであれば、ペアローンで融資額を拡大することができます。既定の年収倍率を超えるローン申し込みでよく利用されていますが、ペアローンには注意すべき落とし穴があります。
ペアローンの場合、どちらかの収入が減ってしまうと途端に返済が困難になってしまいます。家庭の事情で働きが制限される場合、どちらかが勤務時間を減らすなどの対応をしなければなりません。ですが、既に二人で働いている状態ですから、減った分の収入を補うのはかなり困難です。
また、離婚や別居になったとしても、両者は完済まで返済義務を追い続けます。このケースでは大きな金銭トラブルに発展しがちですので注意してください。
7:頭金よりも金利を気にしよう
住宅ローンのような長期返済の場合、一体いくら金利を払えば良いのかよく分からないものです。
そこで一例をあげて、住宅ローン金利の実際に支払う総額を確認してみましょう。
- 借入額:3000万円
- 返済期間:35年(420回払い)・ボーナス返済なし
- 金利:全期間固定金利で年1.0%
- 返済方法:元利均等返済
上記の条件でローン返済を行った場合、利息はトータルで556万7998円にも膨らみます。これは元金の1/5程度の利息を支払う計算で、総返済額は実に3556万7998円に上ります。
ちなみに現在の住宅ローン金利では、変動金利型の相場が0.375%~0.650%の範囲が多く、おおよそ0.500%が相場です。固定金利型は0.91%~1.65%の範囲で、おおよそ1.350%程度を見込んでおくと良いでしょう。
そこで、住宅ローンを選ぶ際は、なるべく固定金利で低金利のプランを探すようにおすすめします。できれば相場程度の住宅ローンに申し込むようにしましょう。
これで安心!ライフイベント・キャッシュフロー表を作ろう
マイホーム購入を成功させるコツとして、具体的なライフプランを作成することが役立ちます。将来に起こる家族の大きなイベント(行事)をリストアップしてライフイベント表を作成し、年ごとのキャッシュフロー(現金の流れ)を具体的な数値で予測したキャッシュフロー表を合わせます。
この2つの表によって、将来の家計状態の行方をある程度把握することができます。
ライフイベント表
家族の将来のイベントを項目でリスト化します。また、そのイベントが行なわれる時期とおおよその費用も書き足していきます。
例)夫(35歳)と妻と子ふたりの家族で30年の住宅ローンを組む場合
時期 |
イベント |
予算 |
2022年 |
マイホーム購入 |
頭金1000万円 住宅ローン3000万円 |
2025年 |
長男・小学校入学 |
30万円 |
2026年 |
次男・小学校入学 |
30万円 |
・・・ |
|
|
2034年 |
長男・大学入学 |
200万円(受験費用込み) |
2035年 |
次男・大学入学 |
200万円(受験費用込み) |
・・・ |
|
|
2042年 |
リフォーム |
500万円 |
2052年 |
住宅ローン完済 |
|
2057年 |
定年退職 |
老後費用2000万円 |
費用のかさむイベントについては、時期に合わせて資金確保の工夫をしていきます。子供の大学入学費用やリフォーム費用、老後資金の調達は特に重要で、積み立て保険などを利用して対応するのが一般的です。
キャッシュフロー表
年ごとの家計の収支を試算して表を作ります。
例)先の世帯で、世帯年収500万円・預貯金1050万円・住宅ローン返済は年100万円の場合
西暦 |
2022年 |
2025年 |
2034年 |
2042年 |
2057年 |
年収 |
500万円 |
500万円 |
550万円 |
600万円 |
退職金1000万円 |
収入合計 |
500万円 |
500万円 |
550万円 |
600万円 |
1000万円 |
通常の生活費 |
270万円 |
270万円 |
270万円 |
190万円 |
190万円 |
ライフイベント |
頭金1000万円 |
小学校入学 30万円 |
大学入学 200万円 |
リフォーム 500万円 |
|
住宅ローン返済 |
100万円 |
100万円 |
100万円 |
100万円 |
0円 |
その他の出費 |
100万円 |
100万円 |
100万円 |
70万円 |
50万円 |
支出合計 |
1470万円 |
500万円 |
670万円 |
860万円 |
240万円 |
収支 |
-930万円 |
0円 |
-120万円 |
-260万円 |
760万円 |
預貯金残高 |
80万円 |
400万円 |
340万円 |
500万円 |
2000万円 |
年収や退職金はあくまでも予測となりますので、その都度で金額を修正すると良いかもしれません。
住宅ローンの返済が滞らないように、ライフイベントの費用を合わせても家計が回るように融資額や返済プランを考慮するのがポイントです。
まとめ
マイホーム購入では住宅ローンの組み方が重要ポイントとなります。無理のない返済プランを立てて、収入と出費のバランスを整え、ライフプランが滞りなく実行できるように事前の準備をおすすめします。